2016年6月16日木曜日

クソ丁寧で誠実な宣伝ですけど何か?『デッドプール』







こんちには。ビニールタッキーです。

『デッドプール』最高でしたね。もう日本公開が発表されてからずーっと楽しみでした。公開日にレイトショーで見に行ったのですが劇場にいたカップル、ボンクラそうな男ども、僕みたいな独り者、みんな大爆笑で盛り上がるという最高の体験が出来ました。もう本当に楽しかった!

しかし楽しかったのは映画だけではありません。宣伝がとにかく楽しかった!
僕はタレントやお笑い芸人が出てきて映画と関係ない話をするような"おもしろ映画宣伝"をニヤニヤ眺める趣味を持っているのですが、『デッドプール』に関しては「これは…いい方向のニヤニヤだぞ!」「というか普通に丁寧な宣伝だぞ!」と思うことが多く、これはぜひ後世の人達のために、というか日本の映画宣伝のために書き残しておいた方がいいぞ!と思ったので以下にまとめてみました。

【ここがえらいよ『デッドプール』日本宣伝】


①ターゲット戦略が明確でえらい
話題作の日本公開…となると宣伝費も興行収入のノルマもデカすぎるのか、タレントに吹替させたり日本版オリジナル主題歌を付けたりしがちですが、そこは低予算でお下品でR指定までついた『デッドプール』。しかも日本での知名度も低い。当然宣伝費も相当低く割り当てられたと考えられます。

そこでどうしたか。
まず一つ。デップーを既に知っているアメコミファン、アメコミ映画が好きな映画ファン、そしてTVアニメ「ディスクウォーズアベンジャーズ」でデップーファンになったアニメファンといった、コアでニッチな層が喜ぶような宣伝方法を選びました。確かに彼らは狭くて規模の小さいコア層なのですが、彼らはSNSとの親和性が極めて高いためネット上でバズを起こしやすい層なのです。彼らの間で話題になれば莫大な宣伝費を使うことなく評判が猛烈に拡散します。(具体例については後述します)

もう一つ。巨大アドトラックやおもしろポスターといった街行く人の目を引く広告方法を取りました。


映画「DEADPOOL」宣伝用巨大フィギュア製作しました!

例えば莫大な宣伝費があればTVCMを全国ネットで流してお茶の間に広めることが出来ますが、何度も言いますが低予算映画の『デッドプール』。そんなお金ありません。そこで街行く人が見かけて思わず写真付きでツイートしたくなるような広告を作りました。

 
母の日の期間に貼られたこのポスターも最高でした。劇中でも何回もマザファッカーって言ってましたね。


デップーちゃんとTOHOシネマズのロゴってデザインが似てるからコラボしたらいいのに…とみんなが感じていたら当然やる!それがデッドプール!


こちらはうちの近所の映画館の立て看板ですが『ズートピア』を見た直後にこれを見た時は吹き出してしまいました。劇場スタッフの遊び心もくすぐるとはナイスな立て看板!


大手シネコンではポスターの文言がその場所にちなんだダジャレになっているという小ネタがありました。たぶん他の映画だったらこんな安易なギャグはイラッと来るのかもしれませんが、そこはデッドプール。役得という感じです。実際にまとめた方がいらっしゃいますのでぜひご覧ください。

デッドプールご当地限定ポスターまとめ

この様によく知らない一般の人でさえも「なんだあれwww」「こんなの見かけた!」とツイートすることでTVCMとはまた別の情報拡散を狙ったのです。

つまりコア層と一般層によるインターネットのバズで話題を広めるという戦略をとったのです。ここが極めてクレバーでえらいと思う点です。

よくこの映画について「タレント吹替も日本版主題歌もなしでえらい」という声を聞きますが、実際はやりたくてもお金が無くてできなかった、というのが真相だと思います。しかしそれでも安易なモテ根性に走らず、工夫をこらして最新型の話題拡散の手法をとり、それが見事に成功したという点が本当に素晴らしいと思うのです。実際に『デッドプール』はこの宣伝手法によって、R指定で無名のアメコミヒーロー映画にも関わらず初日だけで13万5千人、興行収入1億6千万円という前人未到の大ヒットを達成しました。(『デッドプール』初日、『オデッセイ』を144%超える好スタート!興収1億6千万円


②映画の内容と関係あってえらい


デッドプール手乗りフィギュア6万名にプレゼント!特別映像ではデップーが8人に

例えばこの入場特典の手乗りデップー。最近はやりのコップのフチ子的なブームに乗った安易なプロダクトと思われがちですが、これがちゃーんと劇中で宿敵フランシスの絵を描くシーンを模しているのです。



「はあ…そうですか」と思われるかもしれませんが、世の中の入場特典や前売り券特典というのは映画の内容とさほど関係ないことが多いんですよ。具体的に何が、とは言いませんが。言いませんが!

(ちなみにこの手乗りデップー、準備数6万個に対して初日の入場者数が13万5,590人と全然足りなくてあっという間に配布終了となってしまいました。ヤフオクでは6月現在2~3000円で取引されています。欲しかった…)


あと、先ほど取り上げた巨大アドトラックの完成お披露目会には曙が登場しました。



全長7メートル巨大「デッドプール」像が大阪に出現!病押して駆けつけた曙も完成度を絶賛

最初この写真を見た時はなぜ曙…デカいからか?と思ったのですが記事に正解が書いてありました。

本イベントでの曙の起用は、原作コミック内で、来日したデッドプールが相撲部屋に入門していたというエピソードがあり、「千代の酒」という四股名まで持っていることから実現。1月に患った右下蜂窩織炎(ほうかしきえん)が再発して緊急入院したという曙は、病院から会場に駆けつけ「どうしても今日のイベントに出たくてきました。(映画は)めちゃくちゃ面白かったです。アクションシーンもすごいのですが、ラブストーリーでもあるのでそこが見どころです」と意気込みたっぷりに語った。
何と原作コミックのエピソードに沿ったオファーでした。細かいよ!でも行き届いてる!
あと病気療養中なのにあんなグロい映画見てイベントにも出てくれた曙ありがとう!


さらに公開直前イベントにはGacktとCreepy Nutsが出演しました。



R-指定、GACKTからお題もらい入魂のフリースタイルラップ

本日5月26日、東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて映画「デッドプール」の公開直前プレミアイベントが開催され、GACKTとCreepy Nuts(R-指定 & DJ 松永)が出演した。
本日のイベントは、劇場エントランスの特設ステージおよび劇場内で実施された。まずは特設ステージのDJブースにDJ 松永が登場し、ダンサブルなトラックをスピン。するとデッドプールとダンサーが現れアクロバティックなパフォーマンスを繰り広げる。さらに映画がR-15指定であることにちなんでイベントに出演することになったR-指定が、「デッドプール」にまつわるワードを盛り込んだラップを披露した。その後GACKTが呼び込まれ、「アメリカンヒーローって言ってもいろんなタイプがいるんですが、初めてこういうタイプのダークヒーローが出てきて。その映画が世界中で大ヒットして、僕的にはすごくうれしいなと思ってます。だいぶ面白いヒーローなのでハマってくれたらうれしいです」と映画についてコメントした。


R-指定にちょっかいを出すデップーちゃん


映画公開記念イベント名物鏡割り。
あっ!よく見たら酒の名前が「千代の酒」だ!細かい!!

R-15指定なのでR-指定を呼ぶという直球なオファーですが、映画の主題歌がヒップホップという点でもナイスチョイスだと思います。しかもTV番組「フリースタイルダンジョン」の出演で若年層や一部のネットユーザーからも支持を集めているR-指定にちゃんとフリースタイルを披露させるという手法が、これこそまさに前述した「コアでニッチな層が喜ぶような宣伝方法」だと感じました。

(彼らのイベント後のインタビューも本当に最高なのでぜひ読んでみて下さい。"Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)に映画『デッドプール』の“合法的なトビ方”を聞いてきた" そこそこ映画好きなR-指定とボンクラむき出しのDJ松永の絡みがキュンキュンきます。)


ちなみにGacktさんはなぜ…と思いましたが「映画化をずっと待っていて英語版で先に見てしまった」という発言を見ると単純にこの映画のファンという感じで好感が持てます。世の中にはアメコミ映画の公開記念イベントで「これからアメコミファンになろうと思いま~す」と発言する人もいますから…

この様に一つ一つの宣伝にちゃんと意味があり、手を抜いて適当にやっている感じがしないのです。そこにとても好感が持てました。


③公式アカウントがえらい
デッドプール宣伝で絶対に忘れてはいけないのがツイッター公式アカウントの素晴らしい運営手腕です。

映画の主人公なりきりアカウントというのはよくありますがデップー公式がえらいのは「破天荒キャラを貫きつつちゃんと宣伝している」という点です。

これとかもう完全に担当者の努力の賜物でしょう。


映画の公式アカウントでよくあるのが「面白かった!」「見てきたよ!」みたいな短文感想ツイートまで片っ端からRTしてフォロワーをうんざりさせるという行動パターンですが、デップーはそこも違います。
なんと自分でトゥギャりました。すごい丁寧!


ファンアートや愛のある感想には賞賛を送り、逆に悪いやつは絶対に許さないという態度もはっきり示します。
ゴミのポイ捨てと転売屋は許さないデッドプール!誠実か!

はっきり言ってこんな丁寧で誠実な奴のどこがクソ無責任ヒーローなの?と感じます。まああんまり褒めすぎると公式アカウントが調子に乗るのでこれぐらいにしておきますよ。でも、本当に大好きです。こんなに見ていて楽しい映画公式アカウントは初めてです。映画を見て少しでも興味を持った方は今からでもフォローした方がいいですよ。

(余談ですがデップー公式にリプをもらったことがあるのですが、嬉しすぎて「お、応援してます!」とアイドルの握手会に参加したオタクみたいなことを返信してしまいました。どんだけ好きなんだ俺よ)


④ライアン・レイノルズがえらい

これは完全におまけですがこの映画の主演俳優:ライアン・レイノルズは本当にえらいと思います。

海外では「ライアンが急に日本語喋ったぞ????」とパニックだったようですが、ここまでこの記事を読まれた方ならピンと来るかと思います。デッドプール原作の日本で相撲部屋に入門していたという設定を活かしてわざわざ日本公開前日に日本語ツイートをしてくれたのです。これをえらいと言わないで何と言おうか!!

ライアン・レイノルズはこの映画のプロデューサーも兼ねているので宣伝に乗り気なのはわかるのですが、どんな仕事でも呼ばれれば出演するというフットワークの軽さでも有名なようです。海外でもネットユーザーによる映画評に本人役でちゃっかり登場してます。
【ニコニコ動画】正直なトレイラー:デッドプール(feat.Deadpool)


もちろん日本向けのプロモーション映像も当然本人によるメッセージです。フットワーク軽すぎ!大好きだ!



さらに『X-MEN:アポカリプス』の日本向け宣伝映像にもちゃっかり出演してます。もーどんだけファンサービスするのよ!

こういう型破りで軽妙な行動が取れる俳優がガンガン宣伝に参加するというのもこの映画の魅力の一つだと思いました。

というわけでいかがでしたでしょうか。
まだまだ語り尽くせないぐらいデッドプールの宣伝は映画の内容と同様に魅力にあふれています。

しかし僕がデッドプールの宣伝で最も感動したのは、日本の宣伝班の「金はないけど工夫で面白いことやってやろうじゃん!」という姿勢がまさにこの『デッドプール』という低予算映画のスピリッツとつながっているということです。正直この映画は見ていて明らかに予算が少ないんだろうな…と思う箇所があります。しかしそれでもバツグンに面白い映画に仕上がっているのは製作陣のガッツと工夫と、絶対面白いものにしてやるという情熱があったからだと思いました。その情熱に呼応するかのように気合の入った宣伝を見て僕は本当に感動を覚えたのです。


全ての海外映画の宣伝をこういう風にしろ、と言うわけではありません。こういう風に「どうやったらみんな楽しくなるかな?」と考えることっていいことじゃん、と言いたいのです。芸能事務所や広告代理店の提案を鵜呑みにするのもいいですが、何か面白いこととか、みんなが喜ぶもう一工夫とか考えるのも楽しいと思うんですよね。ほんの少しでもそういう宣伝が増えたらいいなと、このクソ無責任ヒーローの、ふざけて遊んでいるように見えて、実はクソ丁寧で誠実な宣伝を見て思いました。